独立行政法人国立病院機構 刀根山病院

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光療法市民公開講座 概要と質疑応答

テーマ

パーキンソン病の高照度光療法    
                   講演者:ウィリス博士、病院長 佐古田、神経内科医師 遠藤


ウィリス博士講演内容要旨

パーキンソン病の治療の根幹はドパミン補充療法ですが、これは様々な合併症を引き起こすことが問題です。症状をかえって悪くすることもあれば、ジスキネジア、不眠、うつ、不安、神経症などの原因にもなります。私たちは光療法を用いることで、患者の不眠、不安、うつといった問題を解決し、抗パーキンソン病薬の投薬量を減らし、結果として生活の質を改善できることを示してきました。眼から光が入ることで体内時計、ドパミンを調節するので、光は眼を介したお薬ということができます。パーキンソン病患者さんにおいて、特に不安感は運動症状を悪くする要因であり、光療法によってこれを取り除くことで患者さんの生活の質が向上します。オーストラリアでの4年間にわたる光療法の施行結果では、うつや不眠については光療法開始後割と早期から改善しますが、運動症状の改善については年単位の時間がかかります。パーキンソン病の自然経過に対する影響としては、薬物療法だけの患者さんが徐々に進行していくのに対して、光療法を施行している患者さんは症状があまり進行しない傾向がみられました。


遠藤による実例紹介

症例1: 発症16年、抗パーキンソン病薬を多種多量に内服していた患者さんが光療法をきっかけに薬を減量することができた
症例2: 発症早期のパーキンソン病患者さんに対して少量の薬剤と光療法を組み合わせて良い状態を保つことができた
症例3: 発症12年の患者さんに光療法を導入し、3ヶ月継続することで運動症状の改善が得られた
症例4: 発症5年の患者さんに光療法を導入し、開始3ヶ月では運動症状の改善は得られなかったが、2年間継続することで振戦、歩行などが改善した

質疑応答

【質問者1】  
某医療機関で不眠の治療として光療法を1ヶ月半、夜7時―8時に施行した。不眠についてはむしろ3時間ぐらい寝付けなくなったが、左手のふるえが軽減した。また本日の話にあったようなむずむず足やRBDが治るといったことも自分の症状と一致する。眼に光を当てるとドパミンが産生するというのは本当か。

ウィリス博士(佐古田)
治療戦略としては夜8時―10時ぐらいに光を当てるのが最も良いですが、患者さんの状態によって当てる時間を変えたりします。1980年代にパーキンソン病患者で網膜のドパミンが減少することが報告されていて、光をあてると網膜でドパミンが産生されることがわかっています。そしてWillisらの研究で、眼にドパミンを注射するとパーキンソン病が改善することが示されています。

【質問者2】  
年齢とともに老眼、白内障、緑内障など眼の疾患をもつ患者も多くなっている。このような疾患をもっている人にも治療は可能か。

ウィリス博士(佐古田)
重症な白内障患者はそれだけで日内リズムが狂うことが報告されています。眼に光が入らないといけないので手術をすすめられている場合は受けられた方がよいと思います。

【質問者3】  
光療法をうけるための基準として内服薬などに制限があるか。

ウィリス博士(佐古田)
テトラサイクリンなど光過敏を起こす薬剤は避けた方が良いです。抗パーキンソン病薬の内容については特に制限はありません。

【質問者4】  
自分は軽症患者だが、治療を受けられるか、どのようにしたらよいか。

遠藤
刀根山病院の神経内科初診外来、もしくは「すくみ足」外来の受診予約をとって来てください。詳しくはホームページをご参照ください。

【質問者5】  
自分は緑内障をもっているが、緑内障が悪くなるということはないか。

ウィリス博士(遠藤)
基本的には安全ですが、定期的な眼科医の診察を受けていただく必要があります。

【質問者6】  
研究成果の中で、うつ症状や不眠症が軽症から中等症の場合に光療法の効果があるということだったが、重症の場合でも効果があると考えて良いか。また発症経過が長い患者、高齢の患者でもある程度の効果が得られるか。

ウィリス博士(佐古田)
重症なうつでも光療法が効果を示した例があります。経過が長い患者さんについては効果を示す例とそうでない例があります。発症経過が短い患者さんの方が効果を示しやすい印象ですが、経過が長く高齢であっても試す価値はあります。

【質問者7】  
自分の夫は発症5年、メネシットで治療中であるが、この治療を初めて知って受けさせてみたいと思う。これは毎日続けなければならないのか、また費用の面についても知りたい。

佐古田
刀根山病院では臨床研究として光療法を実施しています。希望する患者さんは、まず1-2週間入院してもらっていろいろな検査をします、またこの間にライトの使い方をご本人やご家族に覚えてもらいます。ライトは無償でお貸ししますので、自宅で3-6ヶ月程度使用していただいた後に再度1週間程度入院してもらって、評価をします。この時点で継続のご希望があれば自費で購入していただきます、保険が効かないので5万円程度の出費になります。

【質問者8】  
糖尿病とか、このような身体合併症があれば治療を受けられない、といった制限があるか。
またブライトライトという製品は通信販売でも売っているが、自分で購入して今聞いたような方法で勝手にやってみるというのが危険なことであれば、注意喚起していただいた方が良いと思うがどうか。

ウィリス博士(佐古田)
双極性障害(躁うつ病)の患者さんでは悪化することがあるので注意が必要です。
オーストラリアでは遠方の患者さんが光療法を実施するのに、治療マニュアルという分厚い本を作成していますが、これを読んでその通りにやるのは難しいです。薬と光の同時調節が必要なので、一人で勝手に光を浴びても上手くいかない可能性が高いと思います。

【質問者9】  
自分は27年の経過で、すくみ足についてはリズムウオークや視覚を使ってクリアできているが、不眠など非運動症状に悩まされている。光療法を受けたいが、薬の調節がうまくいくかどうかが怖い。

佐古田
すくみ足やウエアリングオフは薬の副作用です。ドパミンは覚醒剤ですから薬剤の多い人は昼夜逆転になっています、薬を減らさない限り非運動症状はよくなりません。おすすめは、光療法を導入して調子が良いときに薬を少しずつ減らしていくことです。
ウィリス博士
オーストラリアでも経過27年の患者さんが光療法で良い治療経過を得ているのでぜひがんばってください。

【質問者10】  
光療法を施行する患者をどのように選ぶのか。

ウィリス博士(佐古田)
パーキンソン病は多彩な症状があって、どのような症状でもそれを和らげるために光療法の適応があります。パーキンソン病ではなくて振戦だけの患者や、多系統萎縮症などパーキンソン症候群の患者に対しても効果を示した例があります。光療法は、特定の症状に対して効果があるとかないとかいうことは分かっていません。

【質問者11】  
本を読みながらやっても良いと言われたが、下を向いていたら眼に光が入らないのではないか。

佐古田
その通りで、顔を上げて眼に光が入るようにしなければなりません。首下がりの患者さんや斜めに傾いている患者さんにどのように光をあてるか、というのはある程度ノウハウが必要です。

【質問者12】  
ドパミンに関連してジストニアへの治療にも期待が持てるのではないかと思うがどうか。
また、認知症でパーキンソン病と見分けが難しいものについても治療対象になるか。

ウィリス博士(佐古田)
ジストニアに対してドパミン製剤を投与している場合に、光療法と組み合わせて治療した例がありますが、現時点ではっきり光療法の効果があると言えるものではありません。
認知症についてですが、認知症の症状そのものが光療法で治療できるかという難しいですが、昼夜逆転やせん妄を起こしている患者さんには日内リズムが戻るので効果的と考えられます。

【質問者13】  
今日の講演と質疑応答の内容をまとめて病院のホームページか何かに載せてほしい。

佐古田
対応します。

【質問者14】  
父が多系統萎縮症で刀根山病院に通院している。多系統萎縮症に効果があるかどうかはまだこれからの話という印象を受けたが、光療法を試してもらえるか。

佐古田
当院では光療法を臨床研究として実施しています。倫理委員会にはパーキンソン症候群も含めて申請しているので実施は可能ですが、実際のところはあまり試していません、今後検討しますので相談してください。
ウィリス博士
6例の多系統萎縮症患者に光療法を行って、5例で効果がみられました。ただ、(小脳症状としての)歩行障害や構音障害に対しては効果がなく、パーキンソン症状についてはよくなりました。
(補足:多系統萎縮症はパーキンソン症状、小脳症状、自律神経症状の3系統の症状が様々な程度に出現してくる疾患です。)

   
   

最後に(佐古田より)
ぜひみなさん日光浴、散歩をしていただいて日内リズムを整えることが大事です。
本日は長い時間おつきあいいただきありがとうございました。

   

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