患者様へ
臨床検査科
はじめに
臨床検査科の役割は、医師の指示のもとに正確かつ迅速に検査を行い、そのデータを診断・治療を行う医師に提供することです。
検査は、患者様から採取した血液、尿、便、穿刺液、細胞等の検体を取り扱う検体検査と心電図や脳波、呼吸器、超音波検査等患者様の身体から情報を得る生理検査があります。
近年、検体検査、生理検査ともに検査装置の進歩はめざましく、操作性が簡便になり大量の検査を迅速に実施することが可能になりました。しかし、その一方で検査装置がコンピュータ化され、機能や回路が複雑になり臨床検査技師にとって検査技術はもとより高度な知識とメンテナンス技術が要求されます。そこで、臨床検査科では学会や講習会、研修会等に積極的に参加し、知識ならびに技術の修得、さらに各種学会の認定取得にも取り組んでいます。また、検査の質向上のために他職種との医療連携を図り、職員一丸となって『患者中心の医療』の基盤となる患者様の視点で心配りができる組織作りや精度の高い検査データを迅速に報告すること、高度先進医療機関の一部門として最新の検査技術の提供を推進していきたいと考えています。
検体検査部門
生化学検査
血液や尿中の蛋白質・脂質・糖質・電解質・酵素などを測定することで、からだに異常がないか、どの部分の疾患なのか、炎症があるのか、栄養状態はどうか、などを推測する検査です。
血液検査
血液学的検査は、血液の中に含まれている赤血球や白血球および血小板などを測定することにより、貧血の程度や量的・質的異常を調べ、白血病等の血液の病気を見つけることが出来る検査です。
- 血算検査(赤血球数、白血球数、血小板数などの検査)
- 形態検査(血液細胞に異常がないかを確認する検査)
- 凝固・線溶系検査(出血した時に血液が固まる機構がうまく働いているかを調べる検査)
免疫血清検査
肝炎などの感染症の診断のために血清中(血液)の抗原や抗体を調べます。また、腫瘍マーカーの測定や血液型検査、輸血ができるかどうかの検査も行っています。
一般検査
尿・便・髄液・胸水・腹水・インフルンザなどの検査を行います。中でも、尿検査では、尿がつくられる腎臓や尿路系の異常だけでなく、全身の情報を知ることができます。また、便潜血検査では、大腸がんの発見に役立ちます。
細菌検査
細菌検査室は感染症の原因となる微生物を検出し、それに対する有効な抗生剤を調べ、感染症の治療に貢献することを目的としています。感染症を引き起こす微生物には細菌・真菌(カビ類)・原虫・ウイルスなどがありますが、当院は呼吸器専門病院であることから、特に「一般細菌・真菌」および「抗酸菌」を中心に検査をしています。
細菌検査は、塗抹検査、培養・同定検査および薬剤感受性検査からなります。
塗抹検査(グラム染色)
グラム染色は感染症診断において最も迅速で, 重要な検査法です。検査材料をスライドグラスに塗り、染色して顕微鏡下で観察し、病原微生物を推定します。細菌は非常に小さいので顕微鏡下1,000倍の倍率で観察します。グラム陽性菌は濃紫色に、グラム陰性菌は淡紅色に染まります。染色時間は5分以内に完了し、細菌の形態や大きさから原因菌を推定することができます。またその細菌の存在する領域を見ると炎症の状況を知ることも出来ます。さらに、培養検査結果まで待てない状況下では原因菌推定でも抗生剤治療を始められることがあります。
培養・同定検査
検査材料の種類や目的菌により培地(細菌を培養するために必要な栄養分が含まれている寒天)と培養条件を選択して培養(35℃、フラン器で約18~48時間)します。発育した微生物の性状等を調べ、原因菌種を(同定)決定します。
薬剤感受性検査
培養で感染症の原因菌が認められた場合、どのような薬剤が効くのかを調べます。自動同定・感受性装置で測定し、得られた成績は細菌検査技師が確認し、臨床医に報告します。
「抗酸菌」遺伝子検査
抗酸菌の遺伝子検査は、菌体内に存在するリボゾームRNAを増幅するTRC(Transcription Reverse- transcription Concerted reaction)法を用いて迅速診断を実施しています。またTRC法で結核菌と同定されますと、さらに抗結核薬であるRFP(リファンピシン)の耐性遺伝子検査を実施しMDR-TB(多剤耐性結核菌)の可能性をより速く把握するようにしています。
迅速抗原検査
感染性胃腸炎の原因ウイルスであるノロウイルスの抗原検査および抗菌薬関連下痢症や偽膜性腸炎の原因菌であるデフィシル菌のCDトキシン抗原検査を行い、30分以内に報告しています。
院内感染対策
院内感染の原因となるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)、MDRP(多剤耐性緑膿菌)、ESBL(基質特異拡張型βラクタマーゼ産生菌)およびVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)などをはじめとして、重篤な症状を起こす腸管出血性大腸菌O-157などの病原菌が検出された際は迅速に報告できる体制をとっています。また検出菌の種類や頻度などを統計処理し、感染対策に役立てています。細菌室スタッフ全員が疫学および環境調査活動でのICT(院内感染対策チーム)への参画も積極的に行い院内感染防止対策に貢献しています。
病理検査
病理検査とは気管支内視鏡や手術で採取された組織や細胞材料から標本を作製、どのような病気であるかを診断する検査です。病理検査から病気の診断確定や病変の広がり、病気の性質が判り、治療方針や治療効果が判断されます。病理検査には「組織診断(生検および手術材料)」、「術中迅速組織診断」、「細胞診断」や「病理解剖」があります。
「組織診断」では内視鏡で病変部から採取された組織や手術で切除された組織から標本を作製、病理専門医が良性や悪性の診断や病変の進展を判定しています。病理専門医は必要に応じて免疫染色や特殊染色を行い、診断精度の向上に努めています。また、組織診断のひとつである「術中迅速組織診断」は手術中に短時間で組織診断を行い、腫瘍の転移や範囲を診断し手術を支援する病理検査の重要な業務です。
「細胞診断」は喀痰や尿などの剥離した細胞または乳腺など体表に近い病変部から採取した細胞から作製した標本を、専門の知識を有する細胞診専門医と細胞検査士が観察して、腫瘍や炎症を診断します。
「病理解剖」はご遺族の承諾の上で死体解剖保存法に準じて解剖資格認定医が解剖を行います。解剖で得られた組織から組織診断を行い、死因、病態解析や治療効果を検証することで、今後の診断や治療方法の向上に役立てられています。
近年、遺伝子技術により作製された薬を使用する分子標的治療では、投薬前に病理検査で得られた材料から免疫染色等で治療効果を予測して、診療に役立てることにも貢献しています。
これらの業務以外にも、臨床各科とのカンファレンスによる治療方針の決定や蓄積された症例を基に臨床研究を行っています。
生理検査部門
生理機能検査とは専用の医療機器を用いて身体から直接、知りたい生体情報を得るための検査であり、当院では脳・筋神経系の検査、呼吸器系の検査、循環器系の検査、睡眠に関わる検査を行っています。 以下におもな検査を紹介します
脳・筋神経系の検査
- 脳波検査
- 頭皮上にたくさんの電極を置き、記録波形 (脳波)の種類や部位による特徴を見て脳の活動のようすを判断します。
- 筋電図検査
- 専門の医師が診断しようとする筋肉に極細の針を刺し、反応の強さや特徴を調べます。
- 神経伝導速度検査
- 手や足の神経に弱い電気で刺激し、神経を伝わる速さを調べます。
呼吸器系の検査
- 呼吸機能スクリーニング検査
- 最大の呼気努力や最大の吸気努力によって計測される肺の容量を測定したり、最大努力により一気に吐き出される呼気の量や速度を測定します。
- 精密肺機能検査
- 低濃度のガスを用いて吸入ガスが肺毛細血管に取り込まれる量を測定する肺拡散能力検査や気道(呼吸の通り道)の通り易さを測定する呼吸抵抗検査は薬の吸入前後で行い、改善を確認する検査もあります。
- 気道過敏性試験
- 気管支喘息が疑われる方の薬を使う検査は専門の医師が行っています。
- 心肺運動負荷検査
- 自転車エルゴメーターや動くベルトコンベアを使って運動をしてもらい、運動中の呼吸のようすや呼気ガスを分析し、息 切れなどの運動の制限の原因を調べます。検査には専門の医師がつき、運動中の血圧や心電図が監視されます。(写真:心肺運動負荷検査のようす)
循環器系の検査
- 心電図検査
- 心臓のリズムや波形に表れる特徴的な心臓の疾患を見つける検査です。
- ホルター型心電図検査
- 小型の記録器に24時間の心電図を採り込み、データを解析して1日の心拍数の変化やリズムを調べます。血圧測定機能の付いた装置もあり、1日の血圧の変化が分かります。
- 心臓超音波検査
- 心臓の大きさを計測したり、動いている様子を観察したり、血液の流れを計測します。
- 頸部血管超音波検査
- 頸の動脈壁の厚みや血液の流れから動脈硬化の程度を調べます。脳血管や全身の血管の動脈硬化を反映していると言われています。
- 末梢血管超音波検査
- おもに足の血管、動脈や静脈の血流状態を検査します。
- 血圧・脈波(脈波伝搬速度)検査
- 足の閉塞性動脈硬化の程度を測定する検査です。
睡眠に関わる検査
寝つきが悪い、夜眠れない、夜中に何回も目が覚めるなど睡眠の問題は本人と家族にとって重大な問題です。当院では睡眠時無呼吸症候群だけではなく種々の病気治療中の方の睡眠の問題についてもより良い改善の方法を提案するための検査 終夜睡眠ポリグラフィーを行っています。この検査を受ける前に睡眠時無呼吸検査の簡易装置を持ち帰ってもらい、自宅で一晩のいびきや呼吸のようすと指先の毛細血管の血液中酸素濃度の変化を測定・記録する検査を受けていただきます。
終夜睡眠ポリグラフィーは1泊入院で受ける検査です。センサーをたくさん装着しますが眠る努力をしてください。この検査から良い睡眠かどうか、睡眠の状態が分かり、眠れない原因を見つけられることがあります。さらに、睡眠時無呼吸症候群をはじめ、治療することにより睡眠の問題が改善すると元の病気の治療効果が上がることが知られています。睡眠の問題は、睡眠の状態を知ることから始めましょう。(写真:終夜睡眠ポリグラフィーセンサー装着のようす)
睡眠時無呼吸症候群について
睡眠時無呼吸症候群 (Sleep Apnea Syndrome:SAS)とは睡眠中に断続的に無呼吸を繰り返し、その結果日中傾眠などの種々の症状を呈する疾患の総称です。
SASの分類の中でも閉塞性睡眠時無呼吸低呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea Syndrome:OSAS)は様々な心血管系疾患を高率に合併し、予後を決定する重要な因子であることが明らかとなっています。OSAS患者に鼻マスク式持続陽圧呼吸治療(Nasal continuous positive airway pressure:nCPAP)を行うと無呼吸の頻度の激減をみるとともに合併症の改善がみられることがよくあります。それは急性効果と慢性効果の両方であると考えています。当院ではSAS疑いの患者様のスクリーニング検査から入院で行う終夜睡眠ポリグラフィー、nCPAP導入後の効果判定検査を行っています。また、nCPAP導入後の外来診察時は毎回、装置のメモリーカードを持参していただくことにより使用状況をチェックするとともに無呼吸の頻度など報告書を作成しており、治療継続に役にたつものと考えております。また、nCPAP治療装置が使いずらい方には口腔内装置治療(Oral appliance:OA)を提案しています。当院の睡眠歯科外来にて適切な検査を受け、作成したマウスピースを装着する治療法です。どちらか治療継続可能なものを選択していただけます。