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院長がヨーロッパの呼吸器外科学会において最優秀賞を受賞しました。
ヨーロッパの呼吸器外科学会であるEuropean Society of Thoracic Surgeons(ESTS)の 第26回Annual Conference における最優秀賞:Brompton Award の受賞の報告について
院長 奥村 明之進
5月27日から30日までスロベニアのリュブリャナで開催されたEuropean Society of Thoracic Surgeons (ESTS、ヨーロッパの呼吸器外科学会) に参加し、胸腺腫に関する臨床研究の発表を行ってきました。
胸腺腫は良性的性質のものから癌に近い悪性度の高いものまであり、病理組織像は多彩であり、また重症筋無力症を代表とする多彩な自己免疫疾患を合併し、病理学者、神経内科医、免疫内科医にとって重要な課題となっています。また治療には手術、化学療法、放射線治療が有効で、呼吸器外科医、呼吸器内科医、放射線科医にとっても同様です。しかしながら、希少疾患でもあり、手術数は日本全国で年間2000例程度と比較的低頻度の腫瘍であるため、専門家にとっても臨床研究を進めにくく、多施設共同研究が必要です。
悪性腫瘍の治療にあたっては病期の決定が重要で、胸腺腫には名古屋市立大学の教授を務められた正岡 昭 先生の提唱による正岡病期分類が、長らく国際的にも世界標準として用いられてきました。しかしこの病期分類は、提唱された1980年代と比べて治療方法も変化しており、また、TNMの定義によるものではないという問題もあり、UICCに認められる病期分類の再提案が求められてきました。そこでInternational Association for Study of Lung Cancer (IASLC、国際肺癌学会)が胸腺腫の国際的なデータベースを作成し、約10,000例のデータを収集しました。私たち日本の呼吸器外科医もこの国際共同研究に参加し、日本胸腺研究会が中心となって32施設から約3000例の症例を登録しました。そしてIASLCの統計解析によって TNM分類が提案され、2016年にはUICCに認定され、胸腺腫にも国際標準の TNM分類とそれに基づく病期が決定されました。
しかしながら、今回提案された TNM分類では腫瘍サイズに関するデータが不十分であったためか、腫瘍径が反映されていません。そこで今回、詳細なデータを有する日本胸腺研究会のデータベースを用いて2200例の手術症例の検討を行い、腫瘍径と予後の関連を検討したところ、5 cm 以上の腫瘍で再発率が高くなること、8 cm 以上の腫瘍で腫瘍特異的生存率が優位に低下することを明らかにしました。今回の発表は、今後の TNM分類の改定作業でも取り上げられるかもしれません。
今回の発表に対して、学会全体での最も優秀な発表に対して贈られる Brompton Prize を受賞しました。日本のデータベース研究に貢献頂いた全国の各施設へ感謝するとともに、今後も日本の全国共同研究が世界に向けての情報発信を継続するよう願っています。